そうして、今初めて、シイナの考えを理解する。
彼女は恐れているのだ――全てが無に帰することを。
それまで価値のあることが、突然意味を失くすこと。
それまで信じてきたことが、実は意味のないこと。
彼女はそれを恐れている。
だが、理解することとそれに共感することとは違う。
自分は日に日に嘘を重ねることが苦しくなっている。
元来、フジオミは嘘などつかない性分だった。
自分の思うとおりに振舞い、それが許されていただけに、自身を偽る必要もなかったのだ。
冗談なら言うが、それは全て自分の楽しみゆえだ。
しかし、今彼がマナに対して繰り返すそれは、決して彼が望んでいることでもなければ、彼を愉快にするものでもない。
だが、シイナの望みだ。
彼女が望んでいることだ。
そう自分に言い聞かせる。
マナは思った以上に人形から脱し始めている。
その思想は危険だった。
この社会の制度を、わずかに残った我々の存在理由を、根本から覆してしまう。
気づいた時から、フジオミはマナの思考の修正を謀った。
ぶつけてくる問いに正論を繰り返し、反論を封じる。
ほんの少しずつだが、マナの考えが以前のように自分の方に感化されていくのを、フジオミは感じている。
マナはもともとシイナが人を疑うことのないように育ててきていたので、その効果も高かった。
頭ごなしに否定するより、穏やかに根気よく説得する方が、考えを変えさせるには違和感がないのだ。
そんなふうにマナを〈教育〉していく自分を、フジオミは冷めた感情で認識していた。
自分は、一体何をしているのか。
そう、自問したりもする。
自分のしていることは、己れの感情に反している。
自分はシイナを愛している。
マナではなく、シイナを。
けれど、どうにもならないことも知っていた。


