マナがわざわざ部屋まで運んだ朝食に、フジオミはほとんど口をつけなかった。
 だが、マナはそんなに深刻には考えなかった。
 初めてここに来た時の自分と照らしあわせ、フジオミも拒絶反応を起こしていると思ったのだ。
 だから、無理には勧めなかった。
 そんなことをしなくとも、何日かすれば思惑を無視して空腹が堪え切れなくなる。
 人間は二、三日食べなくとも死ぬことはない。
 それよりも、マナはフジオミと話をしたかった。
 老人亡き今、彼女の問いに答えてくれる大人はフジオミしかいない。
 ユウは食事を終えると、いつもどおり姿を消した。
 きっと、地下へと行ったのだろう。
 だから、老人が生きていた頃のように、マナはフジオミを外に連れ出し、散歩がてらに話を切りだした。
 シイナからでもなく、ディスクからでもない、新たな知識を得るために。
 老人の言葉は、一つ残らずマナの中にある。

 自分が何者であるか知ること。
 そして、自分で決めること。

 それを実現するためには、もっと知らねばならなかった。