古びた鍵を解き、窓を開け、彼のそれまで知らなかった異臭を風で追い払う。
薄汚れた灰色の瓦礫から身を乗り出す緑の群れ。
高いものは建物の二階をすでに越えている。
続く草原が風の方向を優しく示す。
「――なんて原始的な世界かね、ここは。とてもじゃないけれど、長居はしたくないな」
フジオミは周囲を見回して、もう一度眉根を寄せた。
マナは初めてここを見た時、とても美しいと思った。
しかし、フジオミは違った。
彼は、この風景に違和感以外の何をも感じることはできなかった。
彼の知っている、美しいと思える自然の風景というのは、ドームの温室の中にしかない。
帰りたい。
今ほど強く、そう思うことはない。
全てが統制化されたあの銀色のドームへと、フジオミは今すぐにでも帰りたかった。
濃い緑は、彼の心を落ち着かせはしない。
あるのは見慣れぬ違和感と強烈な色に対する不安、そして嫌悪だけだった。
彼は、人の力の及ばぬ世界の生み出す命の群れより、人の手が造り出した人工物を愛していた。
もしかしたら、自分達は、とっくの昔におかしくなっているのかもしれない。
そう感じつつも、不可解とは思えなくなっている。
自然の恩恵を忘れて、一体幾世紀たったのだろう。
美しさや懐かしさより違和感を感じるほどに、もうこの風景から自分達はかけ離れたものとなってしまったのだ。
「まいったな」
窓を閉め、鍵をかける。
これ以上何も見たくなかった。ベッドに身を投げ出して、目を閉じる。
目眩のように、思考が駆け巡った。
忘れかけた苦い痛みさえも甦ってくる。
どう対処していいのかもわからない。
「――」
フジオミは途方にくれた。


