光を感じて、フジオミはゆっくりと目を開けた。
逆光の中、長い髪が陽に透けている。
「…ナ…」
かすれた声がもれた。
「フジオミ!!」
あたたかい滴が、頬に落ちた。
それがマナの涙だとわかるまで数秒要した。
「…マ、ナ、僕は、生きてるのか……」
「ええ。生きてるわ。よかった――」
マナの頬から涙がこぼれ落ちる。
フジオミの指が、マナの涙をすくいあげた。
指が、あたたかさと同時に現実感を身体に伝える。
「泣かなくてもいい、マナ」
ゆっくりと、フジオミは身体を起こした。
痛みはどこにもない。
かすかな嘔吐感に眉根を寄せる。が、軽く頭を振って感覚を追い払う。
ようやく、周囲が視界に入ってきた。
「――」
身体には、洗いざらしの掛布がかけてあった。
身を動かすたびにぎしぎしときしむスプリングベッド。
彼の知らない微かな黴臭さが鼻につく。
天井と壁は壁紙で覆われてはいるが薄汚れていた。
荒廃をとどめるためにコーティングはされているが、今にも崩れそうなコンクリートの建造物。
いずれも骨董品とも言える代物だ。
「ここは――」
「廃墟よ。あなた、海に落ちてからずっと目を覚まさないから、ここまで運んだの」
視線をさまよわせ、フジオミはマナの背後にユウを見つけた。
「――」
マナが気づいて声をかける。
「彼がユウよ。あなたを救けて、運んでくれたの」
フジオミは、じっとユウを凝視した。
見れば見るほど不可思議な赤い瞳に、銀色に輝く髪。
まるで別の地からやってきた異種族のような違和感。
「ああ 知っている。〈ユウ〉だね」
ユウは、そんなフジオミの視線を鋭い眼差しで受けとめている。
それから、不機嫌そうに目を逸らした。
「マナ。外に出てくる」