俺がいいって言うまで、目を閉じていて。

 ユウの言葉を守って、マナはじっと目を閉じていた。
「ユウ、もういい?」
「まだだよ。少し歩くから。絶対目を開けちゃ駄目だよ」
 風に重なる、聞いたことのない音。
 踏みだした足は不意に沈んだ。
 ざらついた感触がする。
 滑るような、柔らかな感覚。
 踏みしめるたびにサクサクと音がした。
 いつもの土の硬い感触とは違う。
「ユウ、土が軟らかい。変だわ」
「土じゃないよ。砂だよ」
「すな?」
「そう。海の近くに多くある。草がほとんど育たない乾いた細かい粒」
 両手をひかれて、恐々とマナは歩いた。
 風は湿っているように思えた。
 今まで嗅いだことのないにおいがする。
 マナの知らない音は前へ進むごとに徐々に近づいてくる。
 ますますきつく目をつぶった。
「ユウ、恐いわ。この音は何?」
「見ればわかるよ。さあ、目を開けて」
 ユウが目の前からよける気配がした。
「もういいの?」
「ああ。海だ――」
 マナは静かに目を開けた。

 そうして、目の前に広がる海原を、初めてその瞳に映した。