永い歴史の中で、今、人という種が滅びを迎えようとしていた。

 原因はわからなかった。ただ、徐々に人間から、生殖能力が奪われていった。それがどの種族にも平等に訪れたことは、大いなる運命であったのかもしれない。
 半世紀ほど前に、人類のほとんどは地球上から消え去ったと推測される。最初に、陸続きであるユーラシア、アフリカ大陸に住む人間が死に絶えた。なぜか死は、感染するかのように広大な大陸にいる人々に襲いかかっていったのだ。
 そうして、オーストラリア、アメリカ両大陸に住む人々も相次いで死に絶えた。
 かつて『日本』と呼ばれた経済大国は、辛うじて現在までは生き長らえた。だが、彼らを絶滅から救ったのは、島国であったということだけが原因ではなかった。
 人類の滅亡が戦争や災害ではなく、生殖能力の衰えによってもたらされると発表されてから、世界は恐慌状態に陥った。日本も例外ではない。それ以前からの著しい人口の激減により、日本人の総数は、全盛期の半数にも満たなかったという。それでも、他国からの移住や帰化を特例としてしか認めなかったこの国は、自らの滅びは己れの国だけで迎えることを選んだのだ。