遠吠えクラブ

　千紘は料理ページの撮影で嫌というほど身にしみているのだが、人気料理家のアシスタントほど肉体的にも精神的にもハードな仕事はそうない。

「料理教室のアシスタント」という若い娘にとほうもない幻想

（家事好きで、家のことはなんでもやってくれる、やさしくて頼りになるお母さんみたいな妻）

を抱き、涎を流しながら近寄ってくる男たちが多いが、とんでもない、と千紘はいつも思う。

　人気料理研究家のチームにはどこも共通して、体育会にも似た絶対服従の空気がある。

　また料理撮影は、一瞬も気の抜けない複雑なパズルのような段取りの連続だ。
　限られた時間内の限られた調理スペースで、何種類もの手のこんだ料理をすべてとどこおりなく同時進行で進め、カメラマンにとって最も効率のいい順番でプロセス撮影と仕上がり撮影ができるように段取っていかなければならない。
　
癒し系の天然ちゃんや、おっとりしたお嫁さんタイプが到底できることではない。