遠吠えクラブ

 でも話すうちに「おや?」と思ったのは、千紘が振ったどんな話題にも、短い言葉で適確に返して来たことだ。
 真面目な問いかけにはきちんとした答え、辛辣な皮肉にはやんわりと話題をずらし、ぼけるとちゃんと突っ込んできた。見た目ほど、ぼんやりしてる男じゃないような気がした。

 例えばスタイルのいい女優の話題がたまたま出たので、笑いをとるために

「私もこの完璧なスタイルを維持するのに、すごく苦労してるんですよ」

とぼけてみたところ、聡はあの仏像スマイルを浮かべながら

「一日にバター二箱くらい食べて?」

と素早く突っ込んできたのだ。

 その瞬間、美夏が笑顔のまま、聡のわき腹をえぐりこむように拳を打って黙らせていたのを千紘は見逃さなかった。

 息の合った漫才の相方のようなそのタイミングの絶妙さに、千紘はこのふたりの仲のよさをしみじみ感じた。

 幸福の匂いが霧のように二人を包み、その匂いが自分にまで染みこむような思いがした。