「いまいましい月め」

 赤い猫は、

 その赤い毛をつくろいながら

 空に向かってつぶやいた。



 気に入らないのは

 月が美しく輝いているから。

 太陽のように

 底抜けに明るいこともなく、

 ただただ

 淡い光の中に優しさを含め

 夜の世界を照らす存在。

 無条件に愛されている姿が

 癪にさわるのだ。

 

 陽の光より眩しく感じる

 月。 

 淡い影をたたえた矢が

 赤い猫の瞳に向かい

 スローモーションで飛んでゆく。




 ゆっくりと、そう、ゆつくりと

 闇をかき分けて

 飛び行く。




 目を閉じ、

 空に向かって

 カジるような仕草を

 赤い猫がする。



 「にやあ」

 

 まん丸の月が

 少しカジられ

 三日月になる。



 赤い猫はさらに

 空をカジり

 その度、月は欠け、

 ついに空は、ま暗となった。

  目を開けると

 赤い猫の黒目が

 淡い光を放つ 

 月になっていた。





 「にやあ」

 赤い猫は

 もう一度、鳴いて、

 空に

 キスをした。