ここで女性は言葉を切る。


 なぜか。


 目の前の少女が、突然立ち上がったから。


 そのままスタスタ扉へ向かう少女に、女性は静かに訊く。


「クラネ様?どちらへ?」


 少女は女性を振り返ることなく言った。


「お前には関係ない」


 あまりに見下した言葉に女性は限界を知る。


 でも、我慢。……できなかった。


 バンッと机に教科書を叩きつけ、ズンズン歩き出す。


 そして少女より先に扉を開け、言った。


「今日をもって、私は家庭教師を辞めさせていただきます」


「ふん、勝手にすれば良い」


 もう答える気も失せた女性は、少女の鼻先で扉を勢いよく閉めた。


「今回もこの程度か」


 これで、辞めた家庭教師は5人目。