帰りの電車でも若菜ちゃんはずっとケンちゃんの事を話していた。


背の小さいところが母性本能をくすぐられるだの、あの小さな体でドラムを力強く叩くギャップがいいだの、顔がもろタイプだの。


なんで私が恋の橋渡しをしなきゃなんないの……。


「でも先輩!」


「何?」


「いつかはジンもお隣りさんじゃなくなるじゃないですかぁ。」


「え……。」


「やっだって賃貸だし、一生あのマンションに住むわけじゃないでしょ?先輩だって。」


想像した事なかった。


あいつが隣からいなくなるなんて。


「いいんですか?」


「……なっ何が?」


「このままただのお隣りさんで!」


“ズキッ”


痛いとこつくなぁ。


「なんでなんで!?」


「好きなんでしょ?先輩。」


「えぇっ!?」


「わかりますよ!それぐらい~。」


この子意外と勘がいい!?


それとも私がわかりやすいのか!?


若菜ちゃんは『ジンは夢追い人だし、夢を掴んだらきっと隣りにはいなくなっちゃうんだからそうなる前に気持ちを伝えるべきですよ!』


なんて珍しく超まともなアドバイスをしてくれた。


勇気のない私の背中を、少し押してくれた。


今私は、素直に仁に会いたいと思っている。


帰宅途中に、近所の住宅街に飾られたクリスマスのイルミネーションに足を止めた。


チカチカと、赤や青や緑に色を変えて見る人を魅了する。


仁も同じ。


私はただそれを見てるだけ。


綺麗だな、素敵だなって指をくわえて見てるだけ。


それで満足なの……?そんなんでいいの?


本当はその光り輝く姿を、ずっと隣りで見ていたい。


そう思ってるくせに……。


あとちょっとの勇気が出ない。