“ガチャッ”


弘人がいない事を祈りつつこっそり中を覗き込む。


“キョロキョロ…”


どうやら弘人はいないようだった。


よかった~。


早く用事を済ませよぉっと。


今度は逆に早足でオフィスを横切った。


「これ、お願いします。」


私は資料を開発部の部長に手渡し、周りを気にしつつオフィスを出ようとした。


その時、ふと感じる視線に思わず足が止まる。


ん?


視線を感じた先にいたのは、あの水原紗枝だった…。


なっ、なんで私が睨まれるワケ?


別に私が引け目を感じる必要はないわけよ!


うん。


そう思いつつもうつむき加減でオフィスを後にした。


気の弱い自分が嫌になる。


まぁいいや、弘人に会わずに済んだだけよかっ…


「………!!」


エレベーターのドアが開いた時、私は絶句した。


開いたドアの中に弘人が乗っていた。


弘人は一瞬驚いた様子を見せた後、エレベーターからを降ようと足を踏み出す。


何も言葉を交わさずゆっくりすれ違った。


はっ早く閉まれ~!


震える指でドアを閉めようとした時――


“ガッ!”


弘人は振り返り、閉まりかけたエレベーターの扉を両手でこじ開けた。


えっ何!?


心臓が破裂しそうだった。


なんで乗ってくんの!?


弘人は私の横でただ突っ立って何もしゃべろうとしない。


その重い空気に押し潰されそうになる。


はっ早く着いてよ~。


いつも利用するエレベーターが、こんなに長く感じたのは初めてだった。


そのうち弘人が口を開いた。