翌朝――


玄関を出たら仁がちょうど出ていくところだった。


すっかり元気そうだ。


「もういいの?」


「あぁ…。」


仁は目すら合わせず、去って行く。


ん……あれ?


なんかいつもに増して無愛想。


仁の不機嫌の意味がわからないまま、閉まりかけたエレベーターに急いで乗り込んだ。


何も話さずただ前を向いている仁。


なんだろう。


エレベーターの扉が開くと、仁は先に降りて行く。



「ねっ…ねぇ!」


勇気を出して呼び止めると、仁はピタッと足を止めて少し後ろを振り返る。


「なんかあった?」


「……別に。」


私から目を反らして仁はそう答えた。


「べっ別にって……顔が怖いんですけど。」


「……。」



ダッダメだ!


何考えてんだかさっぱりからない。


何も言わないでいると、仁はそのまま行ってしまった。


あぁ……私、この恋は苦労するかもなぁ。


とんでもない人、好きになっちゃったのかも。



「せんぱぁい!大変ですよ!」


会社に着いて、やっとあいつの不機嫌の理由がわかった。


若菜ちゃんが慌てた様子で駆け寄ってくるとがっしり私の腕を掴んでこう言った。


『マイクロシティ、分裂の危機にあるらしいですよ!』


「はっ!?」



若菜ちゃんの話しによると、昨日のマイクロシティのライブでそれは発覚した。


マイクロシティのメンバーは5人。


そのうちの2人が他にやりたいことが見つかった事を理由に、メンバーを抜けたいと言い出したらしい。


以前から仁とその二人は折り合いが悪く、しょっちゅうマイクロシティの方向性を巡って意見が対立していたらしい。


昨日のライブはまだ体調の良くない仁とその二人が来なかった事で、メンバー二人では演奏が出来ないという事になり、敢え無く中止になったらしい。


たぶんその話は仁の耳にも入っているだろう。


それであんなに不機嫌だったんだ。