翌日――


嫌でも会社を休むわけにはいかず、重い足取りで家を出た。


昨日の夜中、何度も弘人からメールがあった。


『ちゃんと話そう』


『明日会おう』


『連絡ください』


私は返さなかった。


私にもプライドがある。


女の意地がある。


あいつが言った通り、これでよかったのかも……。


何も知らないでずっといるよりは、きっと今わかってよかった。


弘人のした事は、決して許せる事じゃない。


たった一回の浮気だったとしても受け入れる事はできない。


私はそれ程大人じゃないから……。


これは、最後の意地だ。


会社に着いて、弘人の後ろ姿を見つけるなりスタスタと駆け寄った。


「弘人!」


弘人は驚いた様子で振り返る。


「これ返す!」



私は手に持っていたある物を弘人の胸に押し付けた。



「え……っ。」


それは、誕生日に弘人がくれた薄ピンクのストール。


「だって、これっ……」


「いらないから。……そんな下心でいっぱいのプレゼントいらない。」


「……ちっ千秋」


舌を噛み締めて弘人を睨み付けた。


泣かないように……


ここで泣いたら負けのような気がして。


弘人の瞳は、嫌になるくらいクリアで、一瞬裏切られた事自体が嘘なんじゃないか…って思いそうだった。


その優しい瞳に何回癒された事か。



全部嘘だったんだよね。


そう考えて、また泣きそうになった私は弘人に最後にこう言った。


「水原さんにあげる。彼女の方が似合いそうだし!ストールも……“弘人”も。」


そう吐き捨てて、ゆっくりその場から離れた。


これが私の精一杯の強がり。


ぽろぽろ流れる涙に、


悔しいけど本気で好きだったんだと思い知らされた。