「想像以上やな…あの女。」



帰りのタクシーの中でボソッと桜井君が呟いた。



「ありがとね。」



「ん?」




「うれしかった…かばってくれて。」



「やぁーあれは…かばったっていうか…ついつい腹立って。」



頭をポリポリ掻きながら窓の外に目をやる桜井君。



本当……



みんなに感謝しなきゃね。



しばらくしてタクシーは会社の入口に到着した。



「……ってか、仕事サボった事…すっかり忘れてたな。」



「本当だね……。あっ、私がちゃんと部長に謝るよ。付き合ってもらったのこっちだし。」



先にタクシーを下りた桜井君に続いてタクシーを下りようとした時――



“バタンッ!”



え―…



桜井君はタクシーのドアを締めた。



慌てて窓を開ける。



「どっ…どうしたの!?」


桜井君はポケットに手を突っ込んだまま優しく笑っていた。



「……さっ桜井君!?」



「今日は帰り!色々疲れたやろうし。」



「…へ!?」



「部長には俺が上手いこと話しておくし。」




なっ何言って…



「ダメだよそんなの!!」


「大丈夫やって!ほらっ、前だって上手いこといったし!」



「でもっ……」



それじゃ、桜井君が部長に何言われるかっ……



「行ってください。」



桜井君は後部座席の窓枠に手をかけ、中の運転士にそう告げた。



「えっ…ちょっ」



タクシーはゆっくり走り出し、窓の外で手を振っている桜井君がどんどん小さくなる。



桜井君……



私なんかの為に…



走り出したタクシーの中で、携帯を取り出し桜井君にメールを送信した――



《ありがとう》



どうしてみんなそんなに優しいの…



私はみんなの為に、何もしてあげられていないのに。


不甲斐ない私で……



ごめんね。