キミのとなり。

意を決してもう一度、廊下の角から仁のいる病室を覗き込む。



「あれ…?」



先に覗き込んだ桜井君が何かに気がついた。



「どうしたの?」



「おらへんで、あの巨漢…」



「えっ?」



確認するように病室の前を覗くと、確かにそこには誰もいなかった。



「どうしたんだろ…休憩かな。」



「チャンスやん!今行こ。」


桜井君はそう言って堂々と病室の方へ歩き出した。



「…えっあっ…」



それにつられるように私も恐る恐る足を進めた。



――308号室 甲谷 仁



「俺、向こうにおるから…ゆっくりしてきぃ。」



「えっ…」



フッと優しく笑うと、桜井君は背を向けて廊下を歩いて行った。



ドキッドキッドキッドキッ…



急に鼓動が早くなる。



ドアにかけた手が震え出した。



“ガラッ…”



ゆっくりドアを開けると、カーテンの締め切られた薄暗い部屋のベッドの上に仁は横たわっていた。



“ピコンッピコン…”



静かな病室…



私はゆっくりそこにいる仁に近づく。



手には花束をにぎりしめて……。



ベッドの横までくると、仁の顔がはっきり確認できた。



顔のあちこちに切り傷がある…



痛かっただろうね……



手を伸ばして仁の髪を掻き上げた。



その寝顔は、血色がよく穏やかな表情をしていた。



よかった…安定しているみたいで。



後ろにあった椅子に腰を下ろし仁の寝顔を見つめていた。



何も話してくれない…



目を開けてよ…




また唄が聴きたいよ。



早く……



早く目を覚まして……



ベッドの脇の仁の手を握ると、思った以上に温かくて涙が出てきた。



「本当に、……生きててよかったぁ。」




とめどなく溢れ出る涙を拭うのも忘れ、その確かに血の通った温かい仁の手を自分の頬に当てた。