そんなある日―…



残業で遅くなり、タクシーで家路に着く。



疲れ切った体を解しながら、エレベーターに乗った。


鞄の中の鍵を探りながら足を進めると、ドアの前にうずくまる人影が目に入った。


えっ…誰!?



もしかして…マスコミ!?


もう私の事嗅ぎ付けてきたのかな。



どどどっどうしよう。



アタフタしながら考えた。


よっよし…ここは下手に動かない方がいいよね!



あっそうだ、ケンチャンに電話っ…



そう思って携帯を取り出しリダイヤルでケンチャンの名前を探していた時―…



そこにうずくまる人物が立ち上がった。



思わず廊下の壁に身を隠した。



“コツコツコツ…”



近づいてくる足音…



どっどうしよ…



必死に身を隠す物を探した。



けど……何もない。



徐々に大きくなる足音に怯えて、仕方なくそこにあった観葉植物に身を潜めた。


心臓がバクバクした。



嘘が下手な私が、マスコミに何か聞かれてもし口を滑らせたら益々仁に迷惑がかかってしまう。



どうか……



どうか見つかりませんように!!



唾を飲んでその人物が去るのを待った。



“…コツ”



その足音は目の前で動きを止めた。



「おい。」



げっ…バレた。



ゆっくり視線を上げる。



「……相変わらず下手だな、隠れんの。」



えっ…



聞き覚えのある声……



そこに立って首を斜めにして私を見下ろしていたのは



仁だった―…。