桜井君が去った部屋のベッドで、私は思った。



桜井君を本気で好きになれなかった自分・・・



あんなにたくさん愛をくれたのに、



それに答えられなかった。


だけど、桜井君は一度もその事を責めなかった。



それどころか遠回りして、結局元の道を選ぶ私の背中を押してくれたんだ。



それはどんなに勇気がいる事だろう…



それが本当の愛の形なのかもしれない。



年下の桜井君は、そんな大事な事を年上の私に教えてくれた。



だから、私も勇気を出すよ。



今、私ができるのは……



恐れず、愛を伝える事だから。


鞄から、この前もらった紙切れを取り出す。



“ケン 080********”



震える手で携帯を握りしめ、ダイヤルを打った。



“トゥルルル…トゥルルル…”



私の胸には、もうなんの迷いもなかった。



“トゥルル…ピッ”



《はい。》



「あっ、もしもしケンチャン?……っですか?」




《あっもしかして、千秋ちゃん?》



「うん、あっ…今仕事中?」



《今は移動中だから大丈夫だよ!》



移動中―…



「あのっ…もしかしてそこに、仁は……」



《今はいないよ、別の仕事の打ち合わせしてる。》



…ほっ。



「そっか…あっ、あの……」



《本当に電話くれると思わなかったよー》



「あっ…あのね、私もケンチャンに話しがあって。」


《うん。》



「……出来たら会って話したいんだけど。」



《あぁーちょっと待って……えーっとぉ…》



何やらスケジュールを確認している様子だった。



《あっ今度の火曜の夜とかどう!?》



「あっ私は、仕事が終わった後だったらいつでもっ。」



《じゃーさ、火曜の夜8時に……》



私たちは、次の火曜日の夜


ある店で会うことになった。