“♪~”



車の中では、この日の為に桜井君がセレクトしてくれた夏を思わせる軽快な音楽が流れている。



運転席の彼は嬉しそうにハンドルを握る。



いつもは気付かなかったけど、結構男らしい腕してたんだな。



見慣れない黒のTシャツに履き慣らしたデニムというラフな格好…。



4つも年下なんだと実感してしまう程、若々しくて眩しかった。



「ん?どうしたん?」



隣の視線を感じて桜井君がちらっとこちらをみた。



「ううん!なんでもっ。」


桜井君は正面を見ながらまた優しくはにかんだ。



これで、よかったんだよね…?



誰かに確認するように、心の中でそう呟いた。




走ること1時間――



「よしっ到着~。」



そう言って着いた所は、映画館だった。


「映画…?見るの?」



シートベルトを外しながら桜井君は私を見た。



「何言ってんねん、映画見たいって言うたんは先輩やんっ!仮面被った殺人鬼のやつ見たいんやろ?」



「えっ…あっ」



桜井君は私が言った事をちゃんと覚えてくれていた。


ただそれだけの事だけど、すごく嬉しかった。



桜井君に続くように車を降りた。


「チケット買ってくるから、待っててな。」



ポケットのチェーンに繋がれた財布に手を伸ばしながら受付へ歩いて行く。



人込みに混じってチケットを買っている桜井君を遠目で見ていた。