「…どし…たの?」



《あかん?》



キュンッ…



人間ってずるい生き物だ。


たった今大好きな人の背中をあんなにせつない気持ちで見送ったのに



もう他の人からのセリフに胸を焦がしている。


《……先輩?》



「えっ…あっ。」



どうしよう。



答えに困って長い沈黙が流れる。



するとしばらくして、桜井君の声のトーンが変わった。



《う……うそうそっ!明日また会社で会えるしな。》


「え?」



《ごめん、困らせて。》



桜井君……。



《ほんなら、また明日…》


「まっ……待って。」



無意識にそう叫んでいた。


《え?》



踏み出そう。



ちゃんと自分の足で…。


心を閉ざさないで…。