“ガチャッ”



「さぁーどうぞ。」



ニコニコ笑顔のお爺さんに通されたその部屋は前に私が住んでいた隣…



つまり、仁が住んでいた部屋だった。



一歩一歩ゆっくり中へ入った。



目の前に広がるガラッとした殺風景な部屋……



仁が過ごした空間…



なんの因果か…私はまたこの場所へ帰って来た。



「どうかね、いい部屋じゃろ?」



「えっ……あっえぇまぁ。」



窓の外には変わらないあの時のままの風景が広がっている。



あの時、



仁が部屋を出たあの時…



私は何もないこの部屋の、ここに立ってこの景色を見ていた。



仁がいつも見ていただろうこの景色を……。



そして、会いたくて会いたくて仕方なくなって



私は走ったんだ…。



あの時の私は、自分の気持ちに真っ直ぐで後先考えずに仁に気持ちをぶつられたのに。



今の私はどうして…


「どうするかね?決めるかい?」



隣でお爺さんが私の答えを待っている。



 ………


 ………



「ん、どうかしたんかい?」



「あっいえ…」



考えた。



窓の外の景色を見ながら。


「ここはなぁ…」



「えっ?」



私が黙り込んでいると、お爺さんが窓をガラッと開けながら何か話し出した。



少し冷たい風が入り込み私の髪を揺らす。