――翌朝



「先輩忘れ物ありません!?」



「うっうん…大丈夫。」



うっかり目覚ましをかけ忘れて、いつもより30分も起きるのが遅くなった私達は化粧も程々に部屋を出た。


「二人揃って遅刻とかマジ有り得ませんよ~!」



「でもホラ、今は部署も違うし!」



「うちのパートのおばちゃん遅刻にはめちゃくちゃうるさいんですから~」



「……そうなんだぁ。」



早足で駅まで来ると、ソワソワと時計を気にして電車を待った。


はぁ……



寝てないせいかな。



頭がクラクラする。



「先輩……」



若菜ちゃんが私を見つめて言った。



「泣いたんですね……目が腫れてますよ。」



えっ……。



「あっ……うっ俯せで寝たから…かな?」


下手な嘘をついて鞄から鏡を取り出して顔を確認した。


鏡に写る自分の顔……



本当だ。



ひどい顔。



「大丈夫……ですか?そんな状態で仕事なんて…」



「うううん!平気!何かしてないとまた思いだしちゃうから。」



必死に強がる笑顔も引き攣っていた。


会社の玄関口を足早に歩く。



急いで開いたエレベーターに飛び乗って“閉”ボタンに手を伸ばした時――



「ちょっ…ちょっとタンマ!」



誰かがそう叫ぶのが聞こえた。



そして凄い勢いで走り込んで来たその人物に私も若菜ちゃんも一瞬目を丸くする。



「はぁ~間に合った。」



汗だくになって苦しそうに少しネクタイを緩めるその人物は桜井くんだった。