「そこに事務所の人とかもいたの?」


「いや、メンバーだけ。」


えっ……



でも明らかに電話に出た声は女性だった。



「で、朝になって急な仕事が入ってそのまま仕事向かったんだよな、確か。」



仁はそう言うとまたタマのあごの下辺りを撫でた。



「携帯……かけたんだよ。」


「え?」


タマを撫でる指が止まる。


「覚えてない?」


「……。」


仁は記憶を辿るような表情をしている。


「違う人が出たから……ビックリした。」


「え?」


真実を聞くのが怖くなって私は震える足でソファーにへたれ込んだ。


「違う人って?」



「……女の人。」


声まで震えだした。



しばらく黙って考え込んでいた仁が立ち上がりこう言った。


「あぁあれか。」



「えっ。」



「飲んでる途中で前に一緒に仕事したテレビ局の関係者が来て、仕事の相談受けてたんだよ。」


「相談を?」


「あぁ、今度こういう仕事があるんだけど受けてみないかって……ソロの仕事だしメンバーの前では話しにくいからってちょっと席外して。」



「女の人……だよね?」


「まぁそうだけど。で結局明け方まで説得されて……気付いたら二人とも寝てたんだよな。ってかそんなことがあった事すら忘れてたわ。」


そう……なんだ。


そうだったんだ!!


やっぱりそんな事じゃないかと思ったんだよ!!



「あぁ~よかったぁ!」


胸につっかえていた物がとれたかのようにすっきりした。


「なに、心配してたわけ?」


「そりゃっ……だって朝帰りだし、女が出るんだもん!」



「ばっかじゃねえ?」



「うっうるさいっ!まぎらわしいまねするからでしょ!」


バタバタと仁の頭を叩いた。


「イテっ痛ぇよ!」



自分でも驚くほど後ろ向きだった気持ちが前を向いて歩き出した。



その時の私はまだ、それが仁が私の為についた優しい嘘だという事に気付いていなかったんだ。