【旅行まで後2週間――】


それから数日が過ぎたある日―


「っ…ぱい、先輩~!」


“ハッ”


誰かの声で我に返る。


コピー機の前に仁王立ちのまま上の空だった私に、後ろから桜井君が声をかけていた。


「どどどした!?」


「“どどどした!?”じゃないっすよ~さっきからそれ、何枚同じのコピーとってんすかぁ?」


「えっ?」


慌てて手元を確認。


さっき部長に頼まれた資料のコピーが足元にまで散乱している。


あれ……


「大丈夫っすか?なんかボーっとしてるけど。」


「なっなんでもないない!」


慌てて足元に散乱したコピーを拾い整える。


すると、桜井君も座り込んで拾うのを手伝い出した。


「また一緒に飯いきましょうね。」



うれしそうに白い歯を見せて笑う彼。


「……。」


なんだか罪悪感が胸を締め付ける。


もちろん私にはそんなつもりは到底ないけど、桜井君の中で少しづつ私という存在が大きくなっているような気がして……。


はっきり“彼氏がいる”と言わなければ益々その気にさせてしまうかもしれない。


なのに、彼の笑顔を見ているとはっきりそう言えない自分がいた。


「小原さぁん、携帯鳴ってますよ~!」


デスクの向こうである女子社員がそう私に叫んだ。


「あっはぁい!」


私は桜井君からコピーを受け取ると「ありがと」とだけいってその場を去った。


“あまり深入りしないようにしよう”その思いから、そんな素っ気ない態度をついついとってしまった。


コピー機の前で微動だにしない、桜井君からの痛い程の視線を気にしつつ、携帯を確認。


着信は仁からだった。


出ようとした時、電話は切れてしまった。