「だっ大丈夫っすか?」


「あっご馳走様でした。ごめんね、後輩におごらせて。」


少し落ち着いてそう話すと、隣で彼は少しホッとしたように微笑んだ。


「さっき先輩が言ってた事。」


「えっ?」


「運も才能って……」


あぁ……調子こいて偉そうな事言っちゃった。


「その通りやと思います。才能があっても運がないとそれは開花しないし、その逆も言える。」



急に真顔で話し出す彼に、一瞬目を奪われた。


「ジンはどっちも持ってるけど俺はどっちかが欠けてる……そういう事なんやろなって思いました。」


「桜井君……。」


「だから小原先輩だけはジンに渡したくないなって。」


ん?


「えっえぇぇえっ!?」


まさか、感づかれた!?なにこの子、意外と鋭いタイプ!?


タクシーは私のマンション近くで停車した。


「だって、さっきのドラマ見てからかなりショック受けてるし……。」


「あっやっ、それは……。」


桜井君は顔を近づけて私の顔を指差しこう言った。


「だから一発でわかった。」


えっ……


「相当ファンでしょ、ジンの!」



は!?


「ちなみにファンクラブにも入ってると見た!!」


はい??



「だから、あいつには負けたくないなって!必ず先輩にジンより桜井の方がかっこええわ!って思ってもらえるように頑張ります!!」


…目が点だった。


私はゆっくりタクシーを降りた。


閉まった後部座席の窓が開き中から“おバカ”な桜井君が顔を出す。


「そんじゃ、また明日!おやすみなさい!」


「……やすみぃ。」


軽く手を振り遠ざかって行く彼を見送った。



君が鈍感でよかったよ。