『ジン!』


あいつは気付かない。


もう一度……


『バカジン!!』


仁は微かに聞こえたであろうその声に足を止めた。


『こっち向け!』


仁は1階に目を下ろし、驚いた顔で私を見つめている。


『とっとと、どっか行っちゃえ!』


泣きながら何を叫んでるんだ……。


私の中の冷静な自分がそう言ってる。


だけどこれが精一杯の強がりで、精一杯の抵抗だった。


仁は何も言わず私を見下ろしていた。


『もう戻ってくんなバカ!』


声がかすれて、あいつに届かないよ。


私のそんな必死の訴えを聞きながらも、仁はただうつむいて微動だにしない。


なんか言ってよ……。


最後の最後まで無愛想なんだから。


すると、仁はしばらく考え込んだ後に突然、握りこぶしを上へかざした。


え……


なによそれ。


意味わかんない……


かざされた仁の腕に見覚えあるブレスレットをみつけた。


あれ……。


それは、私が仁の誕生日に初めてあげたプレゼント。


前は外されていたのに。


次の瞬間仁はこう叫んだ。


《待ってろよ千秋!!》


あいつはそう叫んだ後、にっこり笑って搭乗口へ消えていった。


なんなのよ、バカじゃない


ドラマじゃないんだから!


最後の最後にあんな笑顔見せるなんて……


抱きしめたくてもそうできない距離に、切なくて苦しくて胸が張り裂けそうだった。


あいつは笑顔だけを残して私の前からいなくなった。


私の23歳の誕生日に……。