春が来て、近所の公園の桜が満開になっていた。


仁が子猫を拾った公園だ。


今でもはっきり覚えている。


雨の中、自分のマフラーで必死に子猫を温めていた仁の姿……。


できれば一緒に桜…見たかったな。


マンションまで続く道も、よく二人で歩いたよね。


考えてみると、そこら中に仁との思い出がちりばめられている。


私がこのマンションに住んでいる以上は、忘れたくても、忘れられないだろうな……。


仁が引っ越して1ヵ月が経ったけど、隣りの部屋はまだ空き部屋のままだった。


正直ふらっと帰ってくるんじゃないかと思う時もある。


“ガチャン…”


なんて幻聴まで聞こえる時もある。


自分がこんなに未練たらしい性格だったなんて初めて知ったよ……。


ある週の水曜日――


久しぶりに晶子と晃が揃って御飯を食べにやってきた。


鉄板を囲んでお好み焼きを焼いていると、


「ごほんっんっんん!」


唐突に晃が意味深な咳ばらいをした。


「……何?晃。」


私がそう聞くと、晶子と晃は見つめ合ってニヤニヤと笑みを浮かべる。


そして晃が急に正座をしだした。


「今日はちょっと千秋にご報告がありましてぇー。」


「……え、何々?かしこまっちゃって、キモい。」


「キッ…キモいってなんだよキモいって!」


「もお何よ~早く言って!」


「オホンッ!スーハァー」


深呼吸をした後、晃はゆっくり話し始めた。


「実はさぁ……俺達」


「うん。」


ニッコリ笑う晃。