開け放ったベランダから、心地いい風が吹き抜ける10月の中頃。


手に持っていたタオルをきゅっと頭に巻きつけて、まさに戦闘開始モード!


ふと見上げた真っ青な空には、入道雲が広がっている。


「プップー!」


その時、マンションの真下に一台の引越しトラックが到着した。


あっきた!


手すりから大きく前に突き出した上体を元に戻し、一気に下まで駆け下りた。


まるで子供が宝箱を開く前みたいに、体中がワクワクしてる。


私、小原千秋、21歳。


高校生の時からずっと一人暮らしを夢みてきた。


厳格な父と、父の言いなりの母に育てられた私は、いつも親の決めたルールや世間の目に縛られて生きてきた。恋人を部屋に連れ込んだ事だって一度もない。


お泊りデートだってしたことない。


そんな私にある日突然、転機が訪れた。


いつもは絶対にうんとは言わない父が、一人暮らしをしたいという私のお願いに首を縦に振ったのだ。


一瞬何かの間違いかと思った・・・でなきゃ、何か悪い物でも食べたに違いない。


だって、「お前の好きにしろ」なんて、あの頭の固い父が言うわけないんだもん。



しかし、その理由は意外なものだった。


父が母に内緒でしていた借金が発覚し、弱みを握られた父は唯一私の味方だった母の頼みを受け入れたのだ。


正確に言うと、受け入れざるおえなくなったのだ。


理由はともあれ、喜んだのは私。


母に感謝!!父の借金に感謝!!


そんなこんなで、今日私は一人暮らしをスタートさせる。


2DKのデザイナーズマンション、決して広くはないが白を基調としたオシャレな作りの部屋だ。


ここから私の新たな人生がスタートするんだ。


門限ナシの恋も満喫したい!!


思いっきり人生を楽しむんだっ!


私の小さな胸は、はち切れんばかりに希望で膨らんでいた。


この時までは・・・。