「大人のふりして、物分りのいいふりをするぐらいなら、あたしはガキのまんまでいい」


傷つかないと、見つけられないものだってある。


自分の手で探さないと、意味のないものだってある。


そう言いたげに俯いた涼の額を、昇りかけた陽を受けて輝く漆黒の髪が覆う。


「大人は何だって、自分たちの言い分を正解に置き換えて、押し付けようとするけどな」


前髪の奥から、諦めたように細めた瞳が孤独を囁く。


「ガキってのは、そんなに頭の悪い生き物なのかよ。枠にはめて守ってやらないといけないほど、ヤワなのかよ」


それなら、あんたの言ってることも正論だな―――――。


龍堂にはそれ以上、彼女を問いただすようなことは言えなかった。


涼の言葉に納得したわけではない。


自分の考えが間違っていると思ったわけでもない。


どう聞いてもその理屈は詭弁であり、剣道部の全国大会三連覇という高い目標を掲げている彼には、所詮は敗者の言い訳に過ぎない。


けれどただ、視線をそらした彼女の横顔が、大きな悲しみの影をたたえているような気がして。


孤独と寂しさを、胸の中に必死に抱え込んでいるような気がして、それ以上は何も言えなかったのである。