「あ?」


那智はすかさず涼に目配せをする。


「誰だよ、あれ。先公か?」


「その目は節穴か」


「なに?」


「よく見てみろよ」


視線で龍堂の促した涼は、つまならそうに息を吐いた。


「制服着てんだろ。あれが教師だっつーなら、間違いなく変態だぜ」


那智は、何度も瞬きをして、信じられないというように呟いた。


「マジかよ」


そして、大げさに肩をすくめると、首を横に振る。


「ありえねー老け顔」


恐らくは、誰もが同じような反応を返すのだろう。


神経が太く、めったなことでは動じないはずの那智までもを動揺させた龍堂に、涼は思わず賞賛の拍手を送ってやりたい気がした。


二人の様子を離れて見守っていた龍堂は、話題のネタが自分であることを鋭く察知する。


だが、幸福なことに二人の会話が聞こえていない龍堂は、訝しげにひそめた眉根を一層寄せると、涼と那智の顔を交互に見交わした。


「何が可笑しい」


まるでけったいなものでも見るように、ひどく無遠慮で不躾な視線を投げつける。


そして彼は、腹の底にズシンと響くような声で、生徒の鏡とも言うべき発言を口にした。


「学生とは、寸暇を惜しんで勉学に勤しむものだ。寄り道をするなど、言語道断!」


龍堂を良く知る人間にとっては、何ら珍しくもない龍堂語録であろう。


しかし、当然免疫がゼロの那智は、マジマジと龍堂を見つめた後、呆気に取られたような顔で涼を見た。