「いい気なもんだな、お前は」


言って、柔らかい首元を優しく撫でる。


仔猫はゴロゴロと喉を鳴らして、ピンと張ったヒゲをピクピクと動かした。


温かい。


柔らかな肌の温もりに、涼は忘れかけていた自分以外の温もりを思い出す。


拳よりも小さな頭。


額を優しく撫でてやりながら、涼は今日一日の出来事を思い返していた。


「お前には関係ない」


嫌悪に満ちた和樹の眼差しに、涼は心臓を貫かれたような、鋭い痛みを感じた。


平気な顔をしていても、昔と変わらない笑みを向ける頼知の姿に、泣きたいほど苦しかった。


隠せる程度の動揺だったのか。


それとも、渇いてしまった心は、もう声を上げて泣くこともできないのだろうか。


どっちでもいいと涼は思う。


感傷的になるのは、時間の無駄だ。


彼女にとって厄介なのは、こうやって彼らの言葉が頭の中から消えていかないことだった。


涼は苦笑する。


聞き流すことなど、とうの昔に慣れていたはずなのに、と。


嘲笑や好奇の視線なら、かわすことは容易い。

それらは別に、自分に何かを伝えるための言葉ではない。


だから、聞き流すこともできる。


だが、彼らは違う。


彼らは、伝えたかったのだ。


自分の正直な悪意や感情を、まっすぐ涼に伝えようとしたのだ。


そんな言葉を、どうして聞き流せるだろう。