和樹の額に氷枕を当ててやりながら、隣の家に住む椎野美織は、少女らしい柔らかな頬に、小馬鹿にするような笑みを浮かべた。


美織は、和樹の隣に住む幼馴染で、都内の女子校に通っている。


顔は可愛いが、言葉がストレートで忌憚ないのが、たまにキズだと、和樹は思っている。


「だいたい、なんでずぶ濡れになったのよ。走って帰ってくれば、そんなに濡れなかったはずでしょ?」


「うるせーな。猫がいたんだよ」


「猫って?」


「捨て猫」


「拾ってきたの? えー、どこどこ?」


「いや、猫は・・・・・・」


言いかけて、涼の顔を思い浮かべた和樹は、顔を背けて溜息をついた。


「いねーよバーカ。うるせーよバーカ」


その瞬間、美織のヘッドロックが和樹を襲う。


「は? 何だって? どの口が言った? どの口が」


「す、すびばせん、僕が、間違ってました。ごめんなさい」


見かけとは裏腹に、実は熱狂的なプロレスファンの美織の低い声に、和樹は白々しい謝罪を口にする。


「口の利き方に気をつけなさいよね」


ロックを外された和樹は、軽く咳き込んで再び溜息をついた。


明日は、涼に会えるといい。


和樹は、熱で朦朧とする頭で、そんなことを思っていた。