そう言って、男は敬礼しているクロの頭をどつく。

クロの頭は傾くが、まるで起き上がり子法師のように、もとに戻る。

クロの顔は表情そのものが剥がされ、風に吹かれどこかに無くしてしまったかのような具合で、

"無表情"または"真顔"としか言い当てられない。

にらみ返しも怒りもしないクロの態度も、
大切な大切なクロをどついた見知らぬおじさんも、
腹立たしいとしか思えなかった。

次の瞬間、突然両肩に感じる抑止力。

抑止というか、抑制というか、抑圧というか。

気づけば両肩を後ろからがっちり固められていた。

「クリュさん?」

振り向けばクリュさんが私を押さえつけて身体の自由そのものを奪っていた。