「あ、あぁー……神崎クン、あはは……」



 それとは裏腹に私の顔は引き攣る。
 こいつには会いたくなかった。

 どうも取っ付きにくいし、いつもニコニコとしていて『来るもの拒まず』な感じであるが、核心には触れさせない様に、見えない一線を引いているような、なんというか気持ち悪い感じがするのだ。
 だから、苦手なのである。

「小鳥遊さん、こんな時間にどうしたの?」


 神崎クンは教室に入ると、大きな手で教室の奥へ私の手を引いた。

 ちょ、今から帰るとこだったんだからやめてよ。
 引き戻さないでっていやていうかなんで引き戻すの!?
 なんて、口には出せない。



「いや、わ、忘れ物を取りに来て……」

 そう話している内にも無意識に教室の端の方に追いやられていく。丁度角だから、視界いっぱいに神崎クン(の胸元)が広がった。

「ふーん、そうなんだ。小鳥遊さんも忘れ物するなんて意外とおっちょこちょいだね!」



 なんて言いながら神崎はいやらしく私の腰に左手を添え、右手を裏太ももに添えた。

 そして、そのままグイッと引き寄せられる。思わずピクッと震えてしまって恥ずかしい。

 ヤツは、どうやら今の反応で笑っているらしくクスクスと笑い声が聞こえる。

 待って、ちょっと待って。

 端から見れば、お互い向かい合わさって抱き合っているように見えるだろう。いやまず角だから私は外から見えないのだろうか。だったら尚更アブナイ事してると思われる!?

 そんなの嫌だ……!