「怖いでしょ?」
「里さ」
「意外と抜け出せないの、この体勢」
「あの」
「しかもこっちはやりたい放題」
「ひ、!?」

耳に唇が触れた瞬間だった。
喉が引き攣ったような声。
背筋に、ぞくりとなにか走った。

肩から脇腹を撫でて、腰に手を回して、Tシャツの裾に指をかけて――里吉は、するりと鳴海から離れた。

目の前には、真っ赤な頬で目を見開いて、ぱくぱくと口を動かす鳴海がいる。

「あはは、面白いカオ」

棒読みでそう言うと、「あんたのスペースそっちだから」と素っ気なく言って、里吉は部屋を出たのだった。
あんな警戒心のないバカ、動揺して動けなくでもなればいい、なんて思いながら。