恋の施し



「…何で“すっげー嫌”なの?」




「ん?
そんなもん決まってるだろ?

俺は響花が好きだから」




「……………え?」




何か意外な返答に驚いてしまった。

いや、そう意味じゃない事はわかっているけれど、こういう状態でこんな人の居ない場面で言われたら……さすがの私でも意識してしまう。




「あ、いやっ!
それはっ……あ、そう!お父さん!」




私の態度に慌てて驚き身体を離す郁。




「お父さん?」




「いや、ほら、何か娘が結婚式をあげるときの父親の気持ちみたいな?
響花が巣立って寂しいなーみたいな?

だ、だから、恋愛感情とかじゃ、ないから…」





よほど勘違いされたくないんだろう。
郁の言葉が珍しくしどろもどろになっている。

郁にとったら私は幼なじみで特別で。
でも、それは少女マンガのような小説のような甘酸っぱさはない。


ただ、本当に特別なだけ。
さっき郁が言った家族的な意味だ。




「そっか…
まぁ、分かってたけどちょっと焦ったよ」




「え?」




「予想外すぎてびっくりしたから」




「そっちかよ…」




――――まただ…



あの頃から、いつも郁はこうして悲しい表情を時々浮かべる。



この顔を見る度に私の胸が何故か締め付けられてしまう。



でも郁は無意識にしている。…余計にそれが私は嫌なんだ。