恋の施し



「……うるせー。離せ」



「離さない。楓と郁にはきちんと手当てして帰ってもらう」



「…迷惑だ。離してくれ」




――――…郁に迷惑なんて初めて言われた。




馬鹿だ、私。

自分から酷い言葉で拒絶したくせに、かなりショックを受けている自分が居る。




「じゃあな」





飽きる程聞いてきた郁の優しい言葉が、今はこんなにも冷たく感じる。


こんな寒い別れの挨拶は初めてだ。




郁は力を失った私の手を振りほどき、出て行った。


暫く俯いていた顔を上げられなかった。





「じゃあ、俺も…」





だけど、楓の存在を思い出し、私はハッと顔を上げる。




「楓は絶対ダメ!郁より怪我ひどいし。…話も聞きたい」




「話したくない…なー…なーんて……」




私が楓をかなり睨んでいるからか、段々彼の語尾が弱くなっていった。



話を聞くまでは絶対ここを通さないんだから。



郁と話せないなら楓に聞くまでだ。というより元々私は楓から聞く予定だったのだ。