「仕方ないな…
響花、ちょっとこっち向いて」




私の様子を見かねた郁がどうやら漸く妥協案を提示してくれるみたいだ。…それなら最初から妥協してして欲しかった。

そして皆にどうフォローしてくれるのかと期待を胸に「ん?何?」と私は彼の方へきちんと話を聞くために向き直る。それまではずっと郁から顔を背け、郁の話は無視していた。




その瞬間、フワリと近くで郁の香りがする。




「……?」



「ごちそーさま」



「!なっ…ちょっ…今っ……!」





段々、唇の違和感ある感触を実感して状況を理解してきた私は慌てて口元を拭う。




「無防備な響花が悪い。
他の男には隙見せんなよ」




「最っっ低!
もう郁なんて知らない!

今日1日は絶対話しかけて来ないで!」




手を繋ぐのでさえかなり恥ずかしいって言ってるのに何で郁はキスするの!?

有り得ない!本当に有り得ない!!


校門はすぐそこでこの時間に登校する人は少なくないのに!!


私は郁みたく経験豊富じゃないし慣れてないってのっ!