「ん…」
その場にしゃがみ込んで、足に当たった何かを拾い上げた。
「…小説?」
ライトで微かに見える“何か”。
それは厚く、難しそうな小説だった。
「あーごめんね。読み終えたやつ本棚にしまうの忘れてたんだ」
「これって恋愛モノ?」
「うん。父さんの」
お兄ちゃんがそう言った瞬間、一瞬だけ沈黙してしまった。
まさかここでお父さんの名前が出てくるなんて思いもしなかったから──。
「…お父さん、小説好きだったもんね。無駄に書店で買ってきてはお母さんに怒られて。
『弁護士は小説を読まないといけないんだ』て意味不明な理由付けてね」
そうだそうだ!とお兄ちゃんは思い出し笑いをして私の手にある本を静かに取った。
──そう、お父さんは地元でも有名な弁護士だった。
忙しい毎日の中、お父さんは必ず家には帰ってきて家族の団欒を楽しんでいた。
私達が自分の部屋に行くと、お父さんも自分の書斎でいつもお母さんに内緒で買ってた小説を読んでいたんだ。たまに女子高生が見るような恋愛モノも見てて笑った事も覚えている。


