それを恐れてソーリは何もできなかった。担任の教師もまったくの無関心であった。まともに向き合いもしない。
親にも言えない。自分はいじめられているなんて情けないことは言えない。家庭では明るい子で通っている。学校へ行きたくなくても家に留まることはできない。
しかし学校では毎日のようにいじめは続く。
あるとき、大介にバケツの水をかけられた。
「水をかけないとまたお前をいじめる」どうせそんなセリフで脅して、けしかけられたのだろう。ソーリは悟った。今にも泣き出しそうな顔の大介は「ごめん」何度も謝った。それを見ているのがひどくつらかった。大介は悪くない、本当に悪いのはお前らだ、許せない。それでもまだけしかけるいじめ側に遂に怒りが爆発した。
 主犯格を殴った。ソーリの本気の一撃は皆に衝撃だった。主犯格は鼻血を流して倒れた。倒れる拍子に机に頭をぶつけたようで、しばらくは動けなかった。真っ白のシャツにどくどくと流れる血がついていた。
 この事件はたちまち学年で問題になり、職員室に呼び出された。事情を説明し、ようやくソーリがいじめられていた事実を認めた。
しかしソーリはもはやその学校に行くことができなくなった。越えてはいけない一線を越えたような気がしたのだ。学校に行っても誰も相手にしてくれないに違いない。同じ人間として扱ってくれないだろう、そう思うと体が動かなくなった。学校へ行こうと思うと気持ちが悪くなって、何度も吐いた。

「調子に乗らんことや。十七年しか生きてないけど、俺の人生哲学や。おとなしくしておればいい。〟出る杭は打たれる〝っていうことわざがあるように日本っていう社会は皆と一緒じゃないとだめや。皆に歩調を合わせて、にこにこ笑って当たり障りのないように振るまうのが一番や。さもないと白い目で見られたり、村八分になったり、何にも自分が悪くなくてもそんな目に遭う。それに自分から友達を作ろうとすることはない。作らないかん友達なんて友達じゃない」