よくわからないが、なんかおっさんみたいな声が聞こえた。
慌てて周りを見てみるが、明らかにそんな人はここには居ない。
だとするとあの声はいったい誰なのか。
『お、なんか可愛い娘がこっち来たぞ』
まただ。またおっさんの声がする。
どうして誰も不思議に思わないんだ?
「林くん久しぶりだね。どうして入院してたの?」
俺が入院している間におっさんみたいな転校生でも来たというのか。
「さっきからなんか言ってるけど、あなた誰なんですか?」
「えっ、ひど……」
「え? あれ、御景(ミカゲ)さん? いつの間に!?」
「知らない…っ!」
『もったいないことするねぇ、お前』
もう訳がわからない。
俺はただこの"声"に対して言ったというのに。
やはり皆には聞こえていないのだろうか。
とりあえず一度確認しなければ。
「なぁ山崎、なんかおっさんみたいな声しなかったか?」
「はぁ? 御景さんの声は無視しておいて何言ってんだ?」
「つまり聞こえなかったんだな?」
「だからそんな声知らねぇって」
「そうか………そう、だよな」
いったい俺はどうしてしまったのだろうか。本当に。
周りには聞こえない所謂幻聴みたいなものが聞こえてくるなんて。
「空耳……だよな」
『失礼な野郎だな。てめぇの命の恩人の声を空耳呼ばわりするとは』
「…………これも気のせい」
『気のせいだとぉ? 心臓だけじゃなくて耳も移植しといた方が良かったんじゃねぇか?』
「っ!!!??」
これには本当に驚いた。
なんでそんなこと知ってるんだ。ストーカーか? いやまさか。
「…山崎、俺気分悪いから保健室行ってくるわ」
「まぁ病み上がりだしな。気を付けろよ」
「おう、さんきゅ」
山崎にはあぁ言ったが、俺は屋上に向かって歩いていた。
とにかく一人になって状況を整理しないとおかしくなりそうだと思った。
いや、もうなってるのかもしれない。