「それはもう、大変だったんだからね」


ようやく落ち着いた母にこの2ヵ月のことを尋ねたところ返ってきた答えだ。答えになってないが。


母によると、俺に外傷はほとんどなかったそうだ。
なんと見ず知らずのおっさんが守ってくれたらしい。
ぜひ一度会ってお礼を言いたいな。

「いやね、それが……亡くなったのよ。夏生を守って」

「え……」


何も言えなかった。
まさか俺の為に命を犠牲にしたなんて。

だが不幸中の幸いと言うべきか、その人には家族や親は居なかったらしい。
つまり悲しむ人が身内には居なかったってこと。

「でもなんか……不憫よねぇ」

「そう、だね…」

「夏生守って脳死しちゃったのに、心臓までくれるんだもんねぇ」

「うん……





…うん? どういうこと?」


「だからそのまんまじゃない。夏生を守った上に、たまたまドナーカード持ってたから心臓までくれたのよ。夏生の心臓はもう限界だったらしくて、事故よりもそっちの方がよっぽど重症だったそうなんだから」

「えっ! そうだったの!!?」

「そうよ。だから感謝しなさいよ」


しますします。当たり前じゃないですか。
もう感謝しか出来ませんよほんとに。


まとめると、俺はこの2ヵ月間を心臓の移植手術に費やしていたということだ。
手術も終わってあとは目が覚めるのを待つだけという時に俺がなかなか目を覚まさなかった所為で、母には多大な心配をかけさせてしまった。
それでも今こうして生きていられるのは、俺を助けてくださった素晴らしいおっさん―――否、森田治(モリタ オサム)さんのおかげだ。

本当に感謝してもしきれないよ。