「あ、すいません。まだ準備中なんですよ」
そう順平の声が聞こえ、彼がトコトコと店の入り口に歩いて行く。
……どうやらお客さんが時間を間違って入って来たらしい。
そんな事を考えながら掃除を続けていた次の瞬間、聞こえたその声に、思わず身を強張らせた。
「……あ、あの……」
その微かに震えた声に……ドクドクと心臓が強く鼓動を打つ。
「こちらに……蓮さんはいらっしゃいませんか?」
「え?蓮サンのお知り合いですか?」
その《彼女》の問いに、順平が窺う様に僕を振り返る。
すると店の入り口に立っている彼女と……真っ直ぐに目が合った。
「……ノラ」
そう震えた声で彼女を呼ぶと、ノラは暫く静かに僕を見つめ……それから笑った。



