「お~い!!次、こっちな!」

その呼び声に、また遠い記憶から呼び戻される。

そっと声の方へと視線を向ければ、雑巾を手にした和也が少し汚れた床を指差していた。

「そこらへん適当に掃いて」

「……了解」

その和也の言葉に手にしたモップを小さく掲げて見せると、和也は頷き後ろを振り返った。

「お前はいつまでサボってんだよ!!俺がグラス磨くから、お前は机を拭け!!」

そう言って和也はカウンターに肘をついたまま、気だるそうにグラスを拭いている男に雑巾を投げ付ける。

「ふぇ~い」

そんな気の抜けた返事を返すその男は、この店で働いているただ一人のバイトだ。

眩しい金髪にジャラジャラとついたピアスやネックレス、それから腕に刻まれた……蠍(サソリ)の刺青。