「貴女は信じられないかもしれないけど、あの人はとても不器用な人よ。思っている事を上手く口に出せないから、いつも誤解されてしまうけど……本当は優しい人。彼はちゃんと貴女の事を愛しているわ。だって……貴女が家を飛び出して行った後、あの人は仕事も放って貴女を探しに行ったのよ。残念ながら貴女を見つけられなかったけれどね」

「……お父さんが?」

その私の問いに彼女はコクリと頷いて見せる。

「貴女の手の事、一番気にしているのはあの人だった。音楽一族の桜木家ではあの子はどんなにつらい思いをして生きて行くのだろうかって……ずっと悩んでいた。だから貴女が蓮達と暮らしているって知った時も、無理に迎えに行く事が出来なかったそうよ。でも心配でこっそり遠くから様子を見に行っている事は、貴女は知らないでしょ?」

そう言って彼女は笑うと、ポンポンと私の頭を撫でる。