「……ノラ……ノラ」

繰り返し私を呼び続ける彼の声に答える様に、そっと彼を抱き締める。

……どうすればいいのか分からなかった。

よく知っている筈の、でも全く知らない人の様に感じる《彼》の温もりに抱かれたまま、静かに瞳を閉じる。

微かに震える冷たい彼の手が私の肌を撫で、それは私の胸を苦しい程に締めつけた。

……これで……いいのだろうか。

こうすれば……私はもう彼を傷付ける事はないのだろうか。

この優しく悲しい彼を、私は傷付けなくて済むのだろうか。

そんな事を考えながら、ただ肌を伝う彼の指の感触を感じる。