「私……行かなくちゃ。放し……」
「好きなんだ!俺は……お前が」
急に聞こえた場違いな台詞に、思わず口を開いた。
「ノラ、お願いだ。アイツの所に行かないで。……お願いだから。ノラ、行かないで」
「……明」
強く、強く、握られた腕の感触に、言い表せない複雑な感情が巻き起こった。
こんなに弱々しい彼の姿を見たのは初めてだった。
明はいつも笑っていた。
いつも元気で、面白くって、三人のムードメーカーの様な彼。
そんな彼が泣きそうな顔をしている。
……明を放っておけない。
でも……このままじゃ蓮が……
そんな事を考えている間にも、時間だけが静かに進んで行く。