「美味しいね……ハンバーグ」

「うん」

ノラの呟きに小さく頷いて返すと、ノラは食事を続けながら静かに俺を見つめた。

「蓮……大丈夫かな」

「……うん」

ノラの窺う様な問いに、また同じ様に頷いて返す。

……それしか出来なかった。

何故なら俺にはもう分かっていた。

このたった一つの俺の……俺達の《居場所》が、すでに失われた事を。

それを俺は知っている。

そして蓮もそれを理解しているだろう。

いつかはこうなる事だった。

それが少し……速まっただけ。

「美味いな……本当に」

微かに震える俺のその呟きに、ノラは食事の手を止め俺を見つめた。

「……明?」

小さく俺を呼んだノラの窺う様な視線を受けながら、恐らくもう二度と食べる事の出来ない……蓮のハンバーグの味を噛み締めていた。