黒の本を持った女はその言葉に激昂します。
「そんなこと聞いていないわ、どうしてあなたの願いを私が聞き入れなくてはならないの!?」
 しかし、その黒の本を持った女に黒の本から出てきた男は笑顔のままで言いました。
「確かに、私はこの事を今始めて口にしました。なぜなら、あなたはそのことを聞かずに私に願いごとを言ってきましたから……さぁ、あなたの命を確かに頂戴しましたよ」
 そう言った黒の本から出てきた男の手には、ドクドクと波打つ小さな赤黒い塊。
 黒の本を持った女はそれを見て驚きに眼を見開きます。
「返して! 私の心臓よ!!」
 そう叫ぶ黒の本を持った女の胸から心臓のリズムは聞こえません。
 黒の本から出てきた男は、その言葉を聞き入れず、その赤黒い塊をひと飲みしてしまいました。
 ごくり……と喉をその心臓が通過していくのが見えます。それは蛇が好物の卵を飲み込む姿にそっくりです。
「確かにあなたの命をいただきました。では、私は、これで失礼しますね」
 そういい残して、黒の本から出てきた男は霞のように消えていなくなりました。
 黒の本を持った女が大事に抱えていた本も煤になって黒の本を持った女の手から零れ落ちていきました。




 さて、こうして黒の本を持った女の心臓は黒の本の住人にとられてしまいましたが、白の本を持った少女はどうなったのでしょうか?