「気になるわね…」

スタジオへと向かうエレベーターの中で、エミリーがぽつりとつぶやいた。

「何が?」


「七海が言っていたことよ。あの子は忘れられることを恐れていた。なのにこの業界から消えるってわけではないと言っていたわ」


「…確かに、そこは俺も気になったな…」


「消えるわけではないけど忘れられたくない…忘れられてしまうようなことをするのかしら…
…まさか、引退を考えてる?」

エミリーが深刻な顔をする。

「まさか‼」

俺はそう否定しながらも頭の中には引退、の二文字が。


エレベーターがスタジオのある階に到着する。

廊下を歩きながらエミリーは考えを述べた。

「でも考えられない話ではないでしょう?
曲を出せば必ずと言っても良い程ミリオン達成。世界各国のオリコンには数週間も一位で居続ける。

…つまらない、と感じたんじゃないかしら」


「…もし、そうなら」

俺はエミリーの方へ向きなおす。

「sabotageが、enと戦う相手になってやるさ。オリコンのランキングで争える相手になってやる」

エミリーは少しぽかんとしてから、口元に笑みを浮かべ口笛を吹いた。

「言うわねーsabotageのボーカルさん?あのアルバムでどこまでいけるか、楽しませてもらうわよ?」


俺は廊下を進んでいく。

そしてスタジオの扉に手を当てながら

「望むところだ」

そう、返した。